2021-07-20

「社会保険労務士って、何をしてくれる人なのですか?」と、質問を受けることがあります。一方で、お付き合いを既にして頂いている企業様からは、「社会保険労務士って、そんなことまでやってくれるんですね。」と、言われることもあります。

さて、どんなテーマからスタートさせて頂こうか?と考えたとき、「まずは社労士の業務について知って頂くことからスタートしてはどうか?」という思いに至りました。そこで本稿では、「社労士の活用事例」と題して、まずは社労士の業務のご紹介からスタートしたいと思います。

●業務の内容は広範囲にわたる

企業の成長には、お金、モノ、人材が必要とされておりますが、社労士はその中でも人材に関する専門家であり、「労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資すること」を目的として、業務を行っています。社労士は、企業における採用から退職までの「労働・社会保険に関する諸問題」や「年金の相談」に応じるなど、業務の内容は広範囲にわたります。その中でも、特に訪問看護ステーションにおいては、どのような活用ができるのか?という視点で絞り込んだとき、大きくは以下の5つに分けて考えてみました。なお、社労士業務は広範囲にわたり、それぞれの社労士に「得意分野」があります。紹介するすべての業務を1人の社労士が担うことは難しく、社労士事務所であってもこれらの業務を全て行っているとは限りません。実際に仕事の依頼を検討される際は、社労士に「守備範囲・得意分野」を確認した上で検討を進めるとよいと思います。

●主な社労士の業務内容

① 労働及び社会保険に関する法令(以下「労働社会保険諸法令」という。)に基づいた申請書等を作成し、またその提出に関する手続を代わってすること

従業員の入退社に伴う労働保険や社会保険の手続きのほか、病気や労災事故が起きた場合、また出産休暇や育児、介護休業者が出た場合の保険申請を代行する業務です。専門知識を必要とするため、知らなかったために受けられる給付が受けられなかった、といったことを防ぐほか、何よりもアウトソーシングをすることで「庶務の時間削減」することができます。アウトソーシングをする以上はコストがかかるわけですので、事業所としては、外部に委託するコストと削減できる手間等のバランスを考えて、活用を検討する必要があります。活用事例という側面から見ますと、私たちに業務を依頼してこられる事業主様は、「人手不足」や「専門家に依頼しているという従業員への安心感」を理由に委託している、という方が多いです。

【図①】 労働保険・社会保険のアウトソーシングイメージ

② 36協定・就業規則の作成、変更

まず36協定とは、労働基準法36条に基づく労使協定であり、企業が法定労働時間(原則として1日8時間・1週間で40時間)を超えて労働をさせる場合(つまり残業をしてもらう場合)に必要となります。 36協定は、締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出なければ、企業は従業員に法定労働時間外で労働(残業)させることはできません。原則として1年に1回、締結と届け出た必要になります。社労士は、企業から依頼があった場合はその作成・届出を代行する業務を行います。

続いて就業規則です。常時10人以上の従業員を雇用する事業所は、就業規則の作成と動労基準監督署への届け出が義務付けられます。就業規則と一言で言っても、労働時間、休日、給与体系、休職復職のルール、退職(定年、定年後再雇用、自己都合退職、解雇のルール)など、多岐に渡り法律に則った上での「自社のルール」を作る必要があります。特に訪問看護ステーションは、自家用車を使用するケースがあったり、オンコールといった業界特有の労務管理が必要であったりするため、就業規則は非常に重要です。また、近年の「働き方改革」により、目まぐるしい法改正があり、就業規則も法律に合わせた形にしていかなければなりません。昨今は、「法改正に合わせた就業規則に見直しをしてほしい」という依頼が増えています。なお、様々な企業の就業規則を拝見するケースがありますが、最新の法律に沿った内容になっている企業は少なく、その辺りの不備が原因で労使トラブルに発展してしまうこともあります。

参考として、昨今の主な労働保険、社会保険に関わる法改正を時系列でまとめた内容を紹介します。

【図2】 昨今の法改正の動向

2019年 備考
4月5日以上の有給休暇の取得義務化 
4月以降に 締結する 36協定から・新様式で、届出。 ・時間外労働の上限規制スタート  (原則として月45時間以内、年360時間以内、等)  大企業
2020年  
4月以降に 締結する 36協定から・新様式で、届出。 ・時間外労働の上限規制スタート  (原則として月45時間以内、年360時間以内、等)  中小企業
4月   6月・4月1日に64歳以上であった人からも雇用保険料徴収 ・大企業・派遣社員の同一労働同一賃金のスタート ・パワハラ防止法スタート(大企業は義務、中小企業は努力義務) 
2021年  
1月・子の看護休暇、介護休暇について、時間単位で取得できるようになる。法改正
4月・中小企業の同一労働同一賃金のスタート法改正
2022年  
4月 6月 10月~・在職老齢年金制度の改定 ・中小企業のパワハラ防止法スタート ・週20時間以上のパートへの社会保険適用拡大    101人以上
2023年  
4月・割増賃金率の引き上げ 月60時間を超える時間外労働に関わる割増賃金率を、現在の25%から50%に。中小企業がスタート
2024年  
10月~週20時間以上のパートへの社会保険適用拡大51人以上

中小企業については明確な規定があり、以下の表にまとめた「資本金の額または出資総額」または「常時使用する労働者数」が該当する企業が中小企業です。

業種資本金の額または出資総額常時使用する労働者数
小売業5000万円以下50人以下
サービス業5000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
その他
(製造業、建設業、運輸業、その他)
3億円以下300人以下

③ 各種助成金などの申請

国の政策として、雇用や人材の能力開発等に関する助成金があります。そのうち、厚生労働省が提供する助成金には、雇用の安定、職場環境の改善、仕事と家庭の両立支援、従業員の能力向上などに役立つものが多数あります。助成金は事業運営の強い味方となりますが、受給するための要件は助成金ごとに異なることと、手続きも煩雑であるため、活用をためらう経営者も多くいらっしゃいます。社労士は、助成金の受給対象になるかといった相談や、煩雑な申請手続を代行することができます。私たちはこの助成金相談も積極的に行っていますが、相談としては「何かうちで使えるものある?」といったシンプルな質問が多いです。社労士の最初の役割としては、「その事業所の実態を把握し、活用できそうな助成金をピックアップすること」だと思っています。本稿では詳しく述べませんが、連載の中でその辺りをご紹介できる機会があればと思っています。ご参考までに、厚生労働省の助成金WEBサイトをご紹介します。

④ 給与計算のアウトソーシング

マイナンバーによる個人情報管理の徹底、人手不足、担当者の高齢化、目まぐるしい法改正など、中小企業では専門家への給与計算アウトソーシングのメリットが高まってきています。また労務管理とも直結することが多いことや、労働保険、社会保険に関わる手続きとも連動するため、給与計算を通じて企業の労務管理により深く関わってもらうという意味で、給与計算を社労士に委託するメリットもあります。活用事例という側面から見ると、以下のような事業所からの依頼が、非常に増えています。

・急な担当者の休職や退職が心配

・従業員に役員報酬や他の従業員の給与情報を知られるのは問題がある

・法令に即した勤怠管理を行い、労使トラブルを防止したい

・アウトソーシングしてコスト削減をしたい

・専門家に委託することによって正確な手取りを従業員に届けたい

特に、担当者の急な病気や退職によって混乱が起きると大変です。実際に、そのような事態が起きてから大急ぎで依頼をされてこられる方がいらっしゃいますが、準備や引継ぎがないとすぐには取り掛かれない、という業務内容です。一人の担当者、もしくは経営者自らが行い、「事業所で一人しかその業務をできない」という場合は、リスク対策としてアウトソーシングを検討されるとよいかもしれません。

⑤ 労務に関わるトラブルの相談

人がいれば、そこにはやはりトラブルがつきものです。労働条件をめぐるトラブルやメンタルヘルス、ハラスメント、従業員の不正行為等、現場では様々な「人に関する問題」が起きます。そこで法律的な側面や人の心情に関わる部分、また事業所を運営していくにあたってのことも考えた形で、どう対処していくとよいかといった労務相談の相手となるのも、社労士を活用することができます。「単純に法律では解決できない」という内容も数多くあり、この辺りの内容も、今後の連載記事で紹介させて頂こうと思っています。

● その他、多様な活用ができる

これまでご紹介してきたのが、「一般的な社労士の業務範囲」になります。その他にも、

 ・賃金制度の構築や見直し

 ・評価制度についての構築や見直し

 ・採用、定着、育成のコンサルティング

 ・従業員研修

 ・ハラスメント相談

など、事業所の「人に関わる相談内容」は、多岐に渡ります。今回は主な業務内容を紹介させて頂きました。今後の連載にあたりましては、一つ一つのより具体的な内容について、紹介をさせて頂ければと思っています。

法律の改正、人手不足による採用難、多様化する人材との向き合い方、経営者が抱える人に関する悩みは、今後まずます増えてくることが予想されます。私達社労士が、日本の医療を支える大事な役割を担われている訪問看護ステーション事業者様にとって、少しでも役に立てる存在になることを目指し、精進していきたいと思っております。

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